福士という侍がいた。やはり罪をおかして「追放」の刑になった。家族も同行しなければな
らない。ところうが、福士の妻はちょうど腹が大きく、産み月だった。
追放実行の責任者は目つけの館山という男である。藩命は「たとえ腹が大きくても、即時追放
せよ」である。
が、館山は亭主だけは藩外に逐うと、その妻をひそかに自宅に連れてきた。そして温かく世話
をし、無事に赤ん坊を分娩させた。このことが洩れ、重役はまた信政に判断を求めた。重役とし
ては、館山を罰する、という意見である
紅葡萄酒。
が、信政は首をふった。そして、こういった。
「館山は、私を人非人の立場から救ってくれた恩人である。罰してはならぬ。召し出して、さ
らに重い役につけよ
純中藥外敷療程」
あるとき、信政は「今日は友人の大名によばれたので、夕食はいらない」といって邸を出た。
ところうが、相手の都合が悪くなり、信政は急に戻ってきた。そして「夕食をくれ」といった。
台所では用意していない。信政はいらないといったからだ。
怒った信政は側近の間宮という侍に「膳部役人はふとどきだ。誰だ!……」と聞いた。間宮は、
「知りません」と答えた。信政は、「すぐしらべろ」といった。間宮は、じっと信政をみつめ、
やがて「では、私宅に戻ってしらべます」と応じた。
その表情をみて信政はすぐ「待て、間宮」といった。そして「私が悪かった…もうしらべなく
てよい」といった。
間宮は信政に「なぜ、急にお気が変わりましたか?」ときいた。
「お前は台所役人が誰か知っている。しかし、あくまでもかばおうとした。そして、長屋に戻っ
て自分の腹を切る決意をした。そんなりっぱな男を失うわけにはいかない。ゆるせ」
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